ドキュメント ルポルタージュ日本
第1回:「みちのく一人旅」
***** 思い出の地、山形。 *****
私が山形大学を中退して、もう丸5年。自分も25歳になった。
成績不振のため、大学を中退した、苦い思い出。
好きだった人を置き去りにして、宮崎に戻ってきた。
身を裂かれるような、辛い記憶。
矢野純は、辛い時代を乗り越え、ここまで生きてきたのです。
今じゃ、人並みとまではいかないものの、立派に働く社会人になりました。
・・そんなとき、ふとヨギル思い出。 「今、山形へ行かなきゃ!」
***** 辛い記憶 *****
好きだったあの人は、元気だろうか。
・・1600kmの遠距離恋愛を続けるのは、とても難しい事。
最後には、大けんか別れをしたのです。
(”離れた”事が、別れの理由でなかった事が、唯一の救いです。)
いまさら、恋愛感情なんて無いけれど、
ただなんとなく、・・悪い事をしたなあって思いが、今も体に残ってる。
喉に引っかかった魚の骨の様に。
この、”魚の骨”を取り除きたい。
そんな気持ちが、私に山形行きの切符を買わせていました。
行くのです!「センチメンタル・ジャーニー」
***** 1997年ゴールデンウィーク *****
ついに旅が始まります。
延岡駅の、見慣れたレールが、
突然、山形につながっているレールに見えて、
今すぐ切符を投げ捨て、逃げだしたい気持ちです。
寝台特急富士号は、走ります。
当時と同じスピードで、徐々に、徐々に、山形へ近づいていきます。
東京で乗り換え、明日の昼には、山形なのです!
***** 米沢市 *****
思い出の、山形大学工学部。それは山形県米沢市にあります。
駅に降りると、・・改装された駅には、当時の面影はありません。
知らない土地に来たようで、急に不安が襲います。
駅から出れば、見慣れた風景。
大学生らしい人たちがうろついています。
街を歩けば、忘れてしまっていた いろんな思い出があふれてきます。
いろんな所で立ち止まっては、”20歳の自分”と対面します。
どうしても、行きたい場所がありました。
あの人と出会ったデパート。あの場所、あの時。
・・・「!?」
なんと、デパート諸ともありません。
建物はこつ然と姿を消し、跡地は公園になっていました。
(後で聞いた話では、郊外に移転したのだそうです。)
絶対に戻らない時間。記憶の中だけの思い出。
”後戻り”するなんて気持ちは無いけど、”5年間”という時間がはっきりと感じられました。
***** あの人 *****
引っ込み思案な私の脳みそが、あれこれ悩んでいる間に、
駅から10km先の、実家。
今日は日曜日で、バスも走っていません。
・・・足は どこまでだって動き続けます。
自分は、何か見えない物に後押しされるように、10kmの道のりを歩きました。
ついに、とうとう、来てしまいました。
どうみても、あの人の実家です。
自分の脳みその方は、まだアレコレ悩んでいます。
「ええい、度胸だめしだ!」・・ドンドン!
***** ヨギル思い *****
元に戻りたいなんてちっとも思わないけど、いまだに恨まれていたとしたら、辛い。
自分は誰とだって仲良く出来たらいいのに!って思ってる。
・・現実には、引っ込み思案が災いして、うまく行かないけれど。
たとえ、別れた人であっても、・・この世に自分を恨んでいる人がいると思うだけで辛い。
玄関開けたとたん、灰皿とか包丁とか飛んでこないか?
そんなことないよね・・。
「何しに来たコノヤロー!」って言われはしないか。
そんなことないよね、だいじょうぶだよね・・。
恋人である前に、”仲間”だと思い込んでいた、20歳の自分。
本当の結果が、今、解き明かされる!
***** お母さん *****
「あのー、お久しぶりです。5年前にお世話になった、宮崎の矢野ですが!」
・・もうほとんど腰を抜かしそうになって、あの人のお母さんが、
「あれー、あれまあー!」と、相当驚いています。
連絡もしないで、5年ぶりに来たのですから当然です。
あの人は、日曜なのに仕事に行っています。
家にいるのは、お母さんとお兄さん。
とても懐かしいです。
久しぶりに、楽しくおしゃべりしました。
山形弁の暖かい響き。安らぎを感じる、懐かしい”あの人の実家”。
突然現れた私を、歓迎してくれました。
夕方5時になり、お母さんが夕食の支度を始めました。
・・「このまま居ては、迷惑掛ける!」
私は、ホテルに引き上げる事にしました。
***** ホテル *****
「案ずる事は無かった。」
会うチャンスは今日しか無いのだけれど、きっとホテルに電話ぐらいくれるでしょう。
・・と呑気に構えていました。
夜9:00、やっぱり掛けてきてくれました!
あの人は女性なのにナイスガイ。さわやかな人でした。
・・・どうやら、今もそうみたい。
***** 電話 *****
矢野純「今晩は!いま米沢来てて、お昼におじゃましたよ!」
あの人「しかし、いまさら好きも嫌いもないよねぇ!」
矢野純「そうだよねぇ。いまさらそんなのないよねぇ。」
電話で話していてはもったいないので、夜9:00に実家に遊びに行くことになりました。
あの人のお父さんにも、久しぶりに会いました。
みんなで、いろいろ話して・・。
お父さん「せっかく来たんだから、”上杉まつり”見て帰れー。明日から泊まりに来い!」
どこの世界に、連絡もしないで現れた、娘の元恋人を、大歓迎して、泊まりに来いと言ってくれる人がいるだろう。
私は、胸一杯に感動しました。
・・・非常識だと知りながら、私の第二の故郷の家族に甘えることにしました。
***** 二人きり *****
次の日の夜遅く、二人きりになるのを見計らって、話すのは当然、「その後」。
矢野純「”その後”何人の人と付き合った?」
あの人「4人。そのうち1人は朝鮮人だったぞ。」
矢野純「うぉー、すげーなー。」
あの人「おめーは?」
矢野純「1人友達に紹介してもらっったけど、ろくに付き合ってもらえず振られたぞ。
おっかしーな、俺、いい男の予定なんだけどなー。」
あの人は笑っていました。
あの人「今付き合ってる人は、趣味がドラムで・・・なんかこう、”好かれてる”んだよねぇ」
ポケベルには、”ヨメニスルカラナ!”のメッセージ。
めちゃくちゃ、照れまくっていました。
矢野純「(”ヨメニスルカラナ”ってメッセージもらえる事が、)
うわー、いいなあ、うらやましいなあ。 」
あの人「なんでだえ?あ!もしかして、まだ私さ未練とかあんじゃねーんが?」
これ以上無い笑顔で言う。
私は、吹き出しそうになったが、あえて真顔で、
「未練があったら、ここに来れないよ。」と言った。
・・・2人とも成長していた。”オトナ”になっていた。
だからこそ、昔を昔のこととして、決して水に流さずに、
今は今として、楽しく話が出来るのだろう。
女性とは親友にはなれないものだと思っていたけど、
自分には、”性別を越えた友達”が出来たのでした。
喉に掛かった”魚の骨”が、だんだんだんだん、消えていく・・。
いつか見た青空が広がる。
***** おしまい *****
二度と行く事は無いと思っていた山形。これが私の”みちのく一人旅”。
1997/05/01 矢野純